角田博明著「実験レポートや卒業論文を自分で製本するということ: 学びのプロセスをクロス貼りハードカバーの製本で残す楽しみ」(電子書籍、Kindle版)むしかご書房(2020年3月28日刊行)


  • フォーマット: Kindle版
  • ファイルサイズ: 11994 KB
  • ページ数: 84 ページ
  • 出版社: むしかご書房; 第1版 (2020/3/28)

URL: https://mushikago-shobo.jimdosite.com/

  • 販売: Amazon Services International, Inc.
  • 価格:250円(税込)
  • 言語: 日本語
  • ASIN: B086HGQ73J

本書の特徴
本書では、初めて製本する人を対象に、クロス貼りハードカバー(いわゆる上製本)による手作り製本の方法を、多数の写真を使って説明しました。在学中にたくさん書いてきた実験レポートやゼミの課題レポート、4年生で取り組んだ卒業論文など、せっかく多くの時間や労力を費やして書いたものを、自分で製本して大切に保管してはいかがでしょうか。そのための方法を、手作り製本について経験がある著者が、製本の仕方を多数の写真と文章で紹介するという構成でまとめました。本体の背をボンドで固める「本格コース」と、一部の工程に市販の簡易製本機を使う「簡易コース」の二通りを紹介していますので、お好きな方を選んで自家製本に取り組んでみてください。なお、本書の概要と特徴は、Amazonの紹介サイトでもご覧いただけます。

 
目次
はじめに
目次
1.段取りと材料の準備
2.製本する本体の製作
 2.1 簡易製本機で本体を製作
 2.2 背を糊付けして本体を製作
3.表紙の製作
4.本体と表紙を接続
5.完成見本
付録 製本する際の4つのポイント
おわりに

 
執筆を振り返って (2021年2月9日に記述)
この本が出版されたのは2020年3月末なので、それから約1年が経過した。その数年前から希望する学生を対象に卒業論文の製本をレクチャーしてきたが、いつまでも続けられるわけでもないので、いずれ何らかの方法で残してそれを見れば誰でもできるようにしておきたい、と考えるようになった。そこに、電子書籍の急速な普及が重なり、より多くの人に製本の方法を伝える有効な手段として、電子化が有力候補に挙がってきた。前著「書きやすく相手に伝わる実験レポートの作成法: 正確に素早くきれいに書きあげるには?」を、その数ヶ月前(2019年12月)に電子書籍で出版したこともあり、書いたレポート(卒業論文)を今度は製本するという、自然な流れの中で本書も同様の方法で出版することになった。


出版からのこの1年は、いうまでもなくCOVID-19の感染拡大の影響により、大学の教育や研究活動も大きな影響を受けてきた時期と重なり、未だにその収束が見通せない状況が続いている。その対応に苦慮しながら慌ただしく時が経過した。いまこうして振り返ってみると、あの時(2020年3月)に、前著に続いて本書が出版できたのは、結果論ではあるがベストなタイミングだったのだと思う。学生を集めてレクチャーすることができない中でも、それに代わる手段をこうして電子書籍なら容易に提供できる。もちろん対面でこういう作業を学生と一緒に行うことは楽しいし、対面ならではのいろいろな気付きが得られる場は貴重である。しかし、それがいつでも、また毎年同じようにいつまでもできるわけではなく、できなくなることがCOVID-19の影響で数年早まったとしても、長い目で見れば大きな違いではない。


実は、我ながら不思議な本を出したものだと思っている。紙の本の作り方を説明した電子書籍という、どこかに矛盾があるような気がずっとしながらも、それを密かに楽しんできた。単純明快で一定の評価が得られ、誰もが価値を認めるという、もちろんそういうものが求められることを承知の上で、そこにあえて少し矛盾を織り込むことで新しいメッセージを伝えることができないかと、そういうことを考えてきた。本書は、いわばそういう流れの中での一つの試みの結果と言える。硬直化した思考から、どうすれば自由な発想が得られるかということへの実験でもある。


といいながら、頭がまだ硬い理系人間としては、ここで模範的な言い分けを考える。いまなぜ、紙の本の作り方を説明した本が電子書籍なのか?


それは実は、スマホで読める(見ることができる)から、である。実際にやってみるとわかるが、初めて製本をする人は、本書などの手引き書を見ながらでないと難しい。すると、もし紙の本だったらどうなるか。糊でベタベタになった手でページをめくると、ページがくっ付いて大変なことになる。それに比べると、今時のスマホは多少汚れても拭けば落ちるし、中には洗える機種もある。要するに、紙より丈夫というわけである。


電子書籍のご時世に紙の本をなぜ残す必要があるのか、という質問もあるだろう。


この1年、大学は(に限らないが)、教科書や参考書の入手、資料の閲覧、図書館の利用、など教育機関としては極めて重要なことが大きな影響を受けてきた。その中で、電子書籍の普及には大きな期待が寄せられ、注目されるようになった。そうすると、紙の本が残る余地はどこにあるのだろうか。実は紙の本が何よりも好きな筆者は必死に考え、それに対する一つの答えを見出した。前述とのつながりで言うと、糊でベタベタになった手でページをめくる、そういうことを決してしない大切な本である。道具や資料として消費される本ではなく、高品質な限定本である。これを作品と言っても良いかもしれない。学生の皆さんに、是非試みて欲しいのは、後者に該当するような自分が一生懸命に取り組んだレポートや卒業論文を、学びの集大成として自分の手で製本して一生の思い出として残して欲しいということである。


[補記]時々質問されるが、本書の表紙の写真は、撮影者は別にいるが、筆者のセルフ・ポートレイトである。シャツの生地の余り物を製本のクロスに使用する、そういうことが自家製本なら簡単にできることを示している。製本専用の布ではないので、多少の事前処理が必要な場合があるが、それは本書の中で触れている。シャツ(自分で作ったのではないが)も本も、他のものでも自分で作ると世界に一つだけのものを手に入れることができる。それに、そもそも大学での学びというのは、そういうものなのではないだろうか。


卒業論文を製本した感想

この本を読みながら初めて製本を行ったが、文章がシンプルで写真や図が多く、その配置も工夫されていて手順がわかりやすかったので、スムーズに楽しく作業をすることができた。また、電子書籍なので、ボンドで手がべたべたになっても、汚れていない指で簡単にページをめくることができたため、スマートフォンが汚れることも、作業がやりづらいということもなかった。

一番難しかったのは最後の、本体と表紙の接着だった。実際に完成した本は、接着に用いるボンドを水で薄めすぎたためか、写真のように表紙のボール紙が反ってしまったり、見返し紙の一部がしわになってしまったけれど、全体的に満足のいくものに仕上げることができた。また、クロスの色を紺に、しおりの色を赤にすることでトリコロールのような配色にした。自分の好きな配色や柄でつくることができる点が非常に魅力的だった。

最後に完成した本を見て、配色だけでなく、反ったボール紙やしわしわの見返し紙と本体も含めて自分だけのものになったのではないかと感じた。

                   [2021年3月27日 古田竜也(4年生)]