分解してしくみを探る

昔から身近な家電製品は、分解してどのような仕組みになっているのかを探るのに,恰好の教材でした。しかし、最近は電子部品の集積化や回路の小形化が進み、見ただけではわからなくなってきています。それでも、部品に表示されている記号を手掛かりに、その種類や規格、メーカー名などを調べることができます。また、機構部品が組み合わされているものは、いくら電子部品の小形化が進んでも、まだ目で見ていろいろしくみを探るには好都合です。

子どもの頃に学校で理科の授業でフナやカエルの解剖をやったり見たことがあると思います.教科書を読むだけではなく,実際に手を動かして実物を観察することは貴重な経験で,解剖自体が目的なのではなく,そこで行う観察が重視されていました.だから,観察した結果を克明にスケッチをすることが求められていたと思います.家の中でも,例えば扇風機の首振りがどのような仕組みになっているかわかりますか?モーターは1個しかついていないので,モーターの回転運動を首振りという往復運動に変換するリンク機構が使われています.これなどは,中を開けて見れば一目瞭然ですが,簡単な仕掛けなので自分で考えてみると良いと思います.往復運動を回転運動に変えるのはクルマのレシプロエンジンです.これもシリンダの中の動きをみることはできませんが,科学館などにいけばカットモデルで仕組みが見れるかもしれません.その他にも,子どもの頃におもちゃを分解してどうなっているのか見たことがある人は少なくないと思います.

このようなことから、研究室の3年生の春学期のゼミの数回を使って、毎年「分解実習」を行っています。故障して使えなくなったものや、古くてもう使わなくなったもの、廃棄処分の予定のものなど、要するに捨てる運命にある工業製品に、最後に学生の教材として役立ってもらおうというわけです。

分解にはいくつかの流儀があります。簡単に言えば、壊すのではなく分解するということです。と言っても、また組み立て直して動作を確認するというのではハードルが高いので,そこまでは求めません。もっとも、これは「修理」の範疇として、ときどきやることではありますが。

分解をする前にどのような方針で行うのか、またどのような道具を使うのかスライドにまとめたものを以下に示します。ダウンロードしてご覧ください。

 

ダウンロード
分解してしくみを探る
身の回りのモノの仕組みを探るー不要になったものを分解して発見することの愉しみ
分解してしくみを探る20180517.pdf
PDFファイル 9.3 MB

これまでに分解をしてきたものをいくつか紹介します。

1.感熱式ファクシミリ
大きく分けて、送信する際に原稿を読み取る部分と、送られてきたものを印字する部分が見どころです。原稿を読み取る部分は、原稿に光を照射してその反射光を光学的に結像させ、そこには電気信号に変換する素子(センサー)がおかれています。紙は二次元的な広がりがありますが、それを「線」で読み込むようにして細長いセンサーが使われています。印字する部分は、最近ではインクジェットプリンタやレーザープリンタが主流ですが、昔は感熱紙に印字する方法が使われていました。用紙は特殊なものを使いますが、メカの方を割とシンプルな作りにしてコストダウンが図られています。

2.液晶プロジェクター
液晶デバイスと光学系を組み合わせて像を拡大してスクリーンに投影します。見所は、液晶デバイスでカラーの画像を作るところと、それを拡大するとともに、焦点距離を変えたり、ピントを合わせる部分です。また、大きな光源を持っているので、その放熱方法や冷却ファンの組み込み方など、熱設計という観点からも興味深い部分がたくさんあります。

3.ビデオカセットレコーダー(VCR)
DVDやBDに取って代わられ、今ではもう現役で使われることはないビデオカセットレコーダーです。ここで使われている回転式ヘッドの歴史はずいぶんと長いものでした。カセット式の前は、オープンリール式のビデオレコーダーがあり、これはメカがむき出しだったので、原理も一目瞭然でした。カセット式になり、メカは筐体内に閉じ込められ、見ただけではわからなくなりました。分解実習には格好の教材ですので、ネタバレをしては申し訳ないので、詳しくは書きませんが、音声より広帯域の映像信号を記録するのに、テープとヘッドの相対速度を早くするための工夫が凝らされています。
同じようなものに、8mmビデオカメラや、DAT(ディジタルオーディオテープレコーダー)などがありました。後者は、オーディオ用ですが、ディジタルの広帯域の信号を記録するのに、ビデオテープレコーダーの仕組みが使われていました。そういえば、音楽のディジタル録音の初期には、ビデオテープレコーダーを利用したディジタル録音も行われていました。

4.インクジェットプリンター
今でも身近なインクジェットプリンターですが、プリンター本体だけでなくインクカートリッジにも工夫が凝らされています。プリンター本体は、ずいぶん安価なモデルが出回っており、安価ということは、コストダウンに結びつく工夫がいろいろされています。もっとも、インクカートリッジとともに購入されることが前提になっていることは周知の通りです。さて、プリンター本体で見ても、紙送りとプリンタヘッドの動き、それを高精度に早く動かすのにどのような駆動システムが使われているのか興味深いところです。インクカートリッジも、最後まで使いきるようにする仕組み、また残量をパソコンで把握できるようにするための工夫など、様々な技術をみることができます。

5.共通(プラスチックの成形品とリサイクル)
大量生産されるこれらの製品は、組み立てコストを削減するための工夫が随所に見られます。昔は多数のねじで固定していたシャーシとケースなども、最近ではねじの使用を減らしてプラスチックの爪が噛み合うことで固定されるはめ込み式が主流です。組み立ては、押し付けるだけで同時に複数の爪が噛み合います。しかし、分解するのは大変で、どこに爪があるのかがわかりにくく、なかなか外すことができません。これを「壊さずに」分解するのは結構な難易度です。よく観察をして、隙間から光を透かして見たり、少し押したり引いたりして固定されている箇所に見当をつけたり、これも慣れてくると意外に勘が働くようになります。力任せでやらずに頭脳勝負で行くしかありません。
プラスチックの成形品には、リサイクルのための材質表示がされています。よく目にするプラスチックの種類を覚えておいて、どのような使い分けがされているのかを考えるのも良い勉強になります。ギア(歯車)も、昔は金属製が多く、その後ベークライト、今では高級品はエンプラ、普及品はポリアミドなどがよく使われているようです。プラスチックは、他の物質を混ぜることで機能を付与することが容易です。カーボンを入れて導電性を付与し、帯電を防いだりシールド効果を発揮させたりすることもあるようです。シールドの基本は金属板ですが、そのような処理がされている箇所はどのようなところなのか、これなども考えてみると色々なことがわかってきます。

最後に,これまでにゼミで分解してきたものの写真をスライドショーでご覧ください.

 

[2018年5月17日]