最近の研究紹介

1. インフレータブル構造を応用した超軽量な惑星探査ローバーに関する研究
JAXA宇宙科学研究所と共同で、膜構造技術を応用して月面や火星を走行する超軽量なローバーの研究開発を行っています。ここで想定しているのは、これまでのような数十kgから数百kgのローバーとは異なり、わずか1kg程度で作ります。そのため、ホイールにも走行に必要なサイズを維持しながら軽量化が求められてきます。未来のローバーは、風船が転がるように走行して行きます。<詳細>

2. 和紙を使ったインフレータブルホイールに関する研究
宇宙の真空や放射線・紫外線に晒された環境では、ほとんどの有機系の材料は劣化して使用が困難です。一方、前述したような折り畳める袋状の構造物を実現しようとすると、薄い膜材料を使わなければならず、適切な材料選定が課題でした。日本の伝統技術である紙漉でつくる和紙はセルロースが主体で、これをうまく使えば、宇宙環境で使用可能なローバーのホイールが作れます。幸いに月面であれば、重力は地球の6分の1なので、最新の小型軽量化されたセンサーやエレクトロニクス機器と組み合わせると、和紙を使ったホイールの実現性が見えてきます。<詳細>

3. 超軽量展開構造物の大型化と構造特性に関する研究
インフレータブル構造は、内圧の付与により構造物として成立させるので、圧力の増減やそれに伴う形状の変化が構造特性に影響を与えます。また、大型化した際の状態を適切な方法で把握する必要があります。本研究では、円筒状のインフレータブル構造をもとに、それを多数組み合わせて構造物を構築するための技術を確立します。宇宙用大型構造物の基本的な部材として重要なインフレータブルチューブは、折り畳んで収納するため、表面には折り目が設けられており、また内圧の低下や力の与え方により局所的な皺や不整合が生じます。そこで、これらがインフレータブルチューブの固有振動数に与える影響について、MD NastranやABAQUSを用いた非線形解析と振動実験から明らかにすることを目指します。また,構造物に何らかの損傷や異常が生じたときに、それらの状態をいち早く検出し、修復を行うヘルスモニタリング技術は建築や自動車等、様々な分野に広く用いられています。ここでは、ピエゾフィルムという圧電素子センサを用いて、モニタリング技術を超軽量宇宙構造物(インフレータブル構造物)に適用し、制御、監視を行うための初期段階として必要なヘルスモニタリングの方法について研究を行っています。<詳細>

4. 超軽量構造物の展開特性に関する研究
インフレータブル構造は規則的な折り目をつけることで、展開だけでなく収納の安定性も得ることができます。本研究では、実験やシミュレーションから、効果的な折り畳み方を解明していきます。インフレータブル構造物は展開挙動の予測が困難であるという特徴を持っており、展開して円筒形状になるインフレータブルチューブだけでも様々な折り畳み方法が考えられています。そこで、折り畳み方法の違いによる展開挙動を実験と解析により比較検討し、安定的な展開挙動をもたらす要因や特徴を明確にしていきます。展開特性の評価にあたっては、解析モデルの確立と妥当性を検証し、折り畳み方法と挙動安定性の関係を明確にしていきます。インフレータブルチューブを組み合わせて立体構造物を作る場合、チューブ同士を連結する部品が必要になります。一般的に棒材を連結して組み立てる場合、多面体ブロック形状の部品が使われますが、収納の妨げになります。そこで、収納容積を抑えるために、ポリイミドフィルムを使ったジョイントシステムの開発を目標とします。また、独自開発したジョイントを用いて立体構造物を試作し、構造的な強度や適合性を検証します。<詳細>

5. 火星探査プレーン用のインフレータブルウィングに関する研究
火星を飛ぶ飛行機のウィングは、そこに持っていくために小さく折り畳めるようにする必要があります。また、地上用途でも無人飛行機などで、このようなウィングの使い道があります。本研究では、小さく折り畳めるウィングの試作を通して、構成法を解明して行きます。インフレータブルウィングは翼断面や翼全体の形状を剛体翼のように成形することが困難です。そのため、製作の可能性・容易性を考慮した信頼性が高い成形方法の解明が重要です。そこで、適切な使用材料や接合方法について検討を行いながら試作を行います。翼形状は飛行性能にも影響が出るため、風洞実験で評価することが重要となります。実機で必要になる性能から翼の設計を行い、スケールモデルによる風洞実験で翼の性能を評価します。インフレータブルウィングを有する飛行体は、飛行前に折り畳まれたウィングを展開し、飛行に必要な状態に維持する必要があります。展開は、できる限り短い時間で行うことが必要です。そこで、類似の技術を用いた製品などを調査し、その応用を検討することにより、展開から飛行に至る過程を考慮したウィングの試作を行い、飛行実験におけるビデオ撮影をもとに飛行性能の評価を行います。<詳細>

6. インフレータブル式アクチュエータを用いた超軽量伸展マストに関する研究
リールに巻いたCFRPの細長い板をほどきながら伸展させると筒状の構造物になります。その伸展力を、通常使うモータではなく、薄い袋に気体を導入して膨らませることによって得ようとしています。この原理を使用したものは、2012年度に宇宙ステーションで実験が予定されています。本研究では、この原理によるプロトタイプモデルを使って、伸展速度が一定になるような伸展を行わせることを目指します。インフレータブルアクチュエータは、収納時の不規則な皺や、伸展部材と支持部との摩擦により不規則な伸展を行うことがあります。そこで、流量計で測定した流量と伸展部材が巻き取られたリールの回転角度をフィードバックし、マイコンのPWM制御により電磁バルブの開閉率を制御し、均一な速度での伸展を行わせます。インフレータブル式アクチュエータを使用した伸展マストは、マストを送り出す機構に付随する摩擦や、アクチュエータの動作に伴う不連続性によって、伸展速度が変動します。この伸展速度の変動を抑制するためには、実際の伸展速度を必要な精度で測定し評価しなくてはなりません。そこで、加速度センサによる加速度の計測、リールの回転数の計測、光学計測などの方法について、計測精度や特徴を調べ、伸展速度の変動を測定する方法の確立を目指します。<詳細>