身近にあるもので「なぜ?」を考える

はじめに
なんでもネットで調べて済ませることが多い時代ですが、あえて「インターネットで調べることはつまらない」と思えるような話題を探しています。謎解きというほどの謎ではないけれど、考えることがおもしろいと思えるような問題です。前回の卵を立てる話題でも「なぜ?」と考えることを提案しましたが,今度はいろいろなもの(工場で量産されるようなもの)を3つ取り上げて、様々な「なぜ?」で楽しんでみてください。

1. 動くためのからくりを考える(おもちゃのクルマ)
2. 不便なのに今でも作られている理由を考える(紅茶の缶)
3. どうやって加工をしたのか、またなぜそうしたのかを考える(リモコン)

 

1.動くためのからくりを考える(おもちゃのクルマ)
江戸時代には、さまざまなからくり人形が作られましたが、その中に「茶運び人形」があります。お茶を入れた湯飲み茶碗を乗せたお盆を持って、客の前まで移動して行き、客が湯飲み茶碗を手にとると停止し、飲み終わった湯飲み茶碗を置くと、向きを変えて来た方向へ戻って行くというものです。私が大学生の時に、機械工学の演習の授業で取り上げられ、どういうしくみなっているのかを考えて図面を書くという課題が出されました。機械を構成する基本的なパーツと、それがイベント毎に連携して必要な機能を発揮するという、自動制御の原形のようなものです。
それに比べるとかなり単純なものですが、図に示すようなおもちゃがたまたま家にありました。



プラスチックでできたクルマで荷物が載せられるようになっています。タイヤを机に接触させた状態で手で後ろに引いて離すと、実は動かずにそこに止まったままです。荷台に荷物を載せると、軽すぎると動きませんが、ある重さになると動きます。実際は写真にあるような丸い荷物が二つついていて、それぞれ約6.6gでした。しかし、重すぎても動きません。さて、どういう仕掛けになっているのでしょうか。
荷物の質量によって動くための条件が決まっているようです。そこで、滑らかな机の上で荷物の質量を小刻みに変えて動く範囲を調べてみました。すると、10g程度の錘で動くことがわかりました。さらに重くしていっても動きますが、30gくらいになると動かなくなります。
さて、このような条件(自分で決めても良い)で同じような動作をするクルマのおもちゃを設計してみてください。ちなみに、手元にあるこのおもちゃの質量は約45gです。実際に手作りするとなると、ここまで軽量化することは難しいと思いますので、動くための条件は自分で決めて良いとします。

 

2.不便なのに今でも作られている理由を考える(紅茶の缶)
大量生産される工業製品は、必要な性能や機能を満たすように合理的な方法で製造されているはずです。合理的というのは、製造コストや加工時間、手間などが妥当だということです。つまり理にかなっていて、説明が付くということです。このような観点から、写真に示すような紅茶の缶を例に、その製造にまつわる「なぜ」を考えてみたいと思います。


この紅茶の缶は、昔からある、金属の四角い缶に丸い蓋(ここでは長円形です)がついたものです。蓋はきつく嵌っているので、スプーンか何かで抉じ開けないと外すことができません。梃子の原理を使ってペコッと開けます。中の紅茶は、スプーンで掬って取り出して使います。どんどん使って残りが少なくなりました。もうスプーンではうまく掬えません。そこで、缶を逆さにして出そうとします。ところが、残り少ない葉が缶の上の、つまり丸い穴の周囲の淵にひっかかって出てきません。ちょっと振るとちょっと出るけれど、まだ少し残ります。最後まですっきりと使い切ることができない仕組みの蓋が、改められることなく今でも使われている理由はなぜでしょうか。(類似の製品にペンキやラッカーなどの塗料の缶があります。)

 

3.どうやって加工をしたのか、またなぜそうしたのかを考える(リモコン)

写真のリモコンはパソコン関連の製品の赤外線リモコンです。以前購入した、パソコンや周辺機器の付属品としてついてきたものです。今はたぶん同様の機能をスマホやタブレットで代行しているので、もう作られていないようです。この手の小型リモコンは、パソコン以外にもカメラや扇風機などあらゆるところで今でも使われています。そのほとんどは、プラスチックを成形したケースが使われています。この会社も以前は下のようなプラスチック成形のリモコンを作っていました。

しかし、このリモコンはケースが金属の、たぶんアルミニウム合金で一体成形されています。内部には電子回路の基板が組み込まれていて、表面に見えるボタンを押して使うようになっているようです。薄いボタン電池は当然ですが交換が可能になっています。
この一体成形のケースはどのように作られたのでしょうか?付属品ですからあまりコストがかかるような方法は取りたくないと思います。また、量産品ですから、必要な機能と性能を合理的に実現する方向で考えられたはずです。しかし、成形しやすいプラスチックを使わずに、またわざわざ金属を一体成形してまでリモコンを作る理由は、いったいなんでしょうか?

 

おわりに
今回の話題は以上の三つです。正解はわかりませんし、たぶんネットで検索しても出ていないでしょう。というよりも、調べるのはつまらないですね。正解を知ることが目的ではなく、いろいろ可能性を考える、それをほかの人が納得できるように説明する、というようなことを楽しんでみてください。また、そういう目で身の回りのものをみると、いろいろ楽しみに事欠きません。物知りになるのではなく、知らないからこそ楽しめることを大切にしてください。[2018年4月26日,5月7日追記]