研究概要

角田研究室では、宇宙で様々な構造物を作るために必要となる展開構造・超軽量構造などについて、基礎・応用・システム化に関する研究を進めています。性能向上のため、大きな面積や寸法を必要とする人工衛星用のアンテナや太陽電池パドルなどは、小さく折り畳んだものを宇宙で展開して構築する必要があります。そこで、展開・伸展構造物を対象に、宇宙で確実に展開できるように、基礎から実用化のためのシステム技術までについて幅広い分野で研究を行っています。最近では、一層の軽量化と低コスト化・高信頼度化が可能なインフレータブル式(膨張展開式)構造の研究を積極的に進めています。さらに、これらを応用した惑星探査用の超軽量ローバーのためのインフレータブル式ホイールや、火星などの大気がある惑星を飛ばす観測用飛行機用の折りたたみ式ウィングの研究も行っています。また、インフレータブル式アクチュエータによる超軽量伸展マストなどをはじめ、新しいアイデアに基づく超軽量な構造物の折り畳み方法・展開方法・形状安定化方法などの解明を目指しています。研究室では、大学院生と卒業研究生が中心になって、これまでに学んだきた知識をもとに、自然界を含む身の回りの様々なものからヒントを得ながら、柔軟な発想を駆使して超軽量宇宙構造物を具現化するために日々研究活動を行っています。

研究の特色

大学の研究室における研究活動の中心は、卒業研究を行う4年生と、2年間にわたり修士研究を行う大学院生です。学部生は、3年生になった時に研究室に配属され、卒業研究に先立ち、理論計算のやり方、実験のやり方、データ整理の仕方、考察の仕方、レポートの書き方などをゼミナールの中で学びます。4年生になると、様々なテーマの中から1年で完結するような内容に限定して、卒業研究として取り組みます。大学院生の場合は2年間かけて修士研究に取り組みます。このような学部生の場合は、在学期間の約半分を、大学院ではそのほとんどを、研究活動を通して学びを深めていくことになります。

この時期の教育は、社会にでる高等教育最後の段階になります。これまで学んできた先人たちの智慧をもとに、今度は自分で新たな問題を発見・解決するための「応用力」を身につけます。智慧はたくさん獲得したほうが良いので、大学では人文科学系から社会科学系まで幅広く学んできました。航空宇宙学専攻では、自然科学系についてはとりわけ多くの分野を深く学んできています。3年生のゼミでは、これらの広い教養をもとに、それらをどうやって社会に出てからの「応用力」として発揮させるのか、ということを実例を交えて学びます。

ここで「実例」として取り上げるのが、研究室で取り組んでいる宇宙工学、中でも宇宙軽量構造システム技術に関する研究です。宇宙で軽量構造というと、普通はアルミニウム合金に代表される軽金属だったり、炭素繊維強化プラスチックに代表される複合材だったりします。しかし、ここで主に取り扱うのは膜材料と言われているフィルム状の材料です。アンテナや太陽電池、ソーラーセイルなどを宇宙で実現しようとすると、究極的に軽い材料が必要になるのです。張力を与えて形状を安定化させて所望の用途に供するのですが、そこに様々な工夫が必要になり、柔軟な思考力が欠かせません。地上の用途とは異なる宇宙空間という環境を前提に、新しいアイデアを提案し、それを試してみることができる宝庫なのです。

研究室での研究には、基盤技術的な研究とプロジェクト的な研究の、大きく二通りの研究スタイルがあります。基盤技術的な研究では、前述のような膜構造に対して力学的な振る舞いを明らかにするための数値計算による研究が中心です。簡単な実験を行いながら、解析モデルの作り方が妥当かどうか、また膜構造としての特性の解明を目指します。プロジェクト的な研究では、月・惑星探査ローバー、インフレータブルウィング機、ソーラーセイル、太陽光発電衛星、などを想定した膜構造の応用技術、展開構造の応用技術について研究を行ってきています。一人の学生が卒業までに経験できるのは、一つのテーマですが、自分の研究テーマに真剣に深く取り組むことにより、また毎週のゼミナールを通して他の学生の研究討論にも参加することにより、計画的かつ合理的な行動力を修得することができます。

以上の述べたように、研究を終えて最後の発表会を迎えるころには、広い教養に加えて柔軟な思考力と計画的かつ合理的な行動力が身につきます。これは、社会のどのような場面であっても役に立つスキルであり、現に多くの卒業生が社会の第一線で活躍しています。