ニワトリの卵をガラス板の上に立ててみよう!


はじめに
ニワトリの卵をテーブルなどの平らな板の上に、実は縦に立てることができます。息をこらして注意深くやるとです。そっと添えた手を離すと、ほら卵が立ったでしょ。さて、自分でやると、なぜ卵が立てられるのかわかるかもしれませんが、人がやったのを見せられると、えっ!どうして卵が立つの?と思う人が少なくないようです。なぜ卵は立てられるのでしょうか?
普段の生活や勉強、仕事などで、いろいろわからないことに遭遇することがあります。もっとも、「わからない」ことに気がつかなければ「遭遇した」と認識することもありません。そのあたりのコツは最近よく聞く問題発見型授業などでも取り上げられていることでしょう。わからないことや問題・課題に遭遇したら、なぜか?と問いを自ら発します。すると、その理由や原因を知りたくなります。その問題が解決しないと、ずっと気になりますし、生活や勉強、仕事に支障が生じることもあります。というよりも、その支障を排除するために、私たちは日々いろいろな行動をあまり意識しないで行っています。
本稿では、最初にご紹介した「ガラスの板の上に立っている生卵」注1)という事象を見た時に起こる思考の道筋を考えながら、「いろいろな行動」の中で「考える」ことの面白さを提案したいと思います。
(注1)本稿は、生卵が立つ理由を知らない方を前提に書いています。

1.ガラスの板の上に立っている生卵
まず、動画でご紹介しましょう。静止画だとその瞬間を撮ったのでは?と思われますので、ここではトリックなしの動画にしました。[YouTubeにアップロードした動画へのリンクです]

これは、普通のニワトリの卵がガラスの上(ここではタブレット端末のディスプレイ)に縦に立っている様子です。街のスーパーマーケットで買ってきて、冷蔵庫に入れておいた卵を1個拝借してやってみました。日付けが書かれた丸いシールを剥がして、糊が残っていないことを確認しています。
この事象を見て、皆さんはどう思うでしょう。なんとも思わない人はあまりいないと思います。単純明解な事象なので、卵が立っていることは認めざるを得ません。認めて、でも「なぜ?」と頭の中をよぎります。もし周りに人がいたら、「わからないのは自分だけ?」と不安になり、他人の顔を伺います。
有名な「コロンブスの卵」を思い出す人がいるかもしれません。でもこれは生卵ですし、潰したりへこませたりしていません。なぜ、生卵がガラスの板の上に立っているのでしょうか。

2.なぜ?という疑問を抱く
このような単純な事象でも、とっさに理由がわからないと「なぜ?という疑問」が湧きます。実は普段の生活や勉強、仕事などでも、少しでも充実したものにしようと思うときには、このような思考モードにするのが効果的なのですが、忙しい日々の中でなかなかそこまでできないかもしれません。そこで、このようなどうでも良いようなことを題材に思考のトレーニングをしてみましょう。別にその理由がわからなくても、美味しい卵焼きはできますし、今勉強していることにも影響はないでしょう。ゲーム感覚でその「なぜ」を楽しみましょう。

3.すぐに調べないでまず観察する
ゲーム感覚で「なぜ」を楽しむのですから、すぐにわかってしまっては楽しくありません。クロスワードパズルで、すぐ解答を見る人がいるはずがないのと同じことです。時間をかけてその「なぜ」の理由を探ることを楽しみましょう。わからないことに出会うとすぐにインターネットで検索をする人がいます。この事象も調べれば何か出ていると思うのですが、それは「つまらない」ことです。しかし、何か理由はあるはずです。きっと必ずあるはずです。絶対にある。つまり、わからないだけで、正解は必ずあるということです。だから、これは簡単な(単純な)問題ということもできます。正解があるわけですから、観察(注2)して発見したことや思いついたことを列挙していってみましょう。
(注2)ここでは動画しかお見せしていませんので、観察と言ってもかなり限定されたものになります。実際にその姿を目の当たりにして観察することは、一般的に非常に重要です。

4.可能性がありそうな理由を列挙してみる
最初は、あまり先入観を持たずにバリエーション豊富に理由を列挙して行きます。友達と一緒にやると思考の相互作用も得られるので、効果が大きいでしょう。ブレーンストーミングとして知られている手法でもあります。試しに、私の周りの学生に参加してもらって列挙してもらいました。

  • 目に見えない紐で上から吊るなどして何か外部から力が作用している。
  • 接触していることろにベタベタする糊のようなものがついている。
  • ガラスの上に砂つぶかゴミのようなものがありそこにはまっている。
  • ガラスというけれど、接している面にきずか何かで凹みがある。
  • 生卵というけれど、重心が下の方にある卵を選んでいる。
  • 卵の重心と図心が一致している。
  • 無重力(微小重力)環境でやっている。

他にも、何かトリックがあるのではないかという意見は多数ありましたが、あまりにも非現実的なのは割愛させていただきました。それでもいろいろありますが、こうして挙げた中にピッタリと正解になるものがあるとは限らず、これから妥当性を検証していく中で、より確実な理由へと導いていくことになります。ここが一番楽しいところです。

5.その理由の妥当性を検討する
さあ、残ったものから追求して絞っていくことを楽しみましょう。確からしさの検討というのは、単純に◯×をつけることではありません。それでは「つまらない」です。じっくり時間をかけて考えてみましょう。先の7つの理由ですが、よくみると着眼点で分類することができます。それは、卵とガラス板の間の接触面に目を向けることと、重心や力の作用の仕方に関することです。前者はルーペを持ってきてそこのところをじっくり観察すれば良いでしょう。後者は、中学の数学の初歩的なこと(空間図形)に関係がありそうです。ルーペで観察と言っても、動画しか提供していないので、ここでは頭の中で想像力を働かせてみてください。
ここから先は、正解に到達する道筋を示す過程に入りますので、すぐに先を読まないで、しばらく自分で考えを巡らせてみるのが良いと思います。覚悟ができたらお先へとどうぞ。

6.残ったものに対して理論固めをしてうまく説明する
正解までのもう一歩ということろまで、もう少し書いてみます。まず、砂つぶやゴミの線で考えられないでしょうか。
(STEP 1)タブレット端末の上は普通は綺麗なので、砂つぶやゴミが付着しているとは考えにくい。[可能性の絞込み]
(STEP 2)それは別にガラス板側に無くても良くて、卵側にあっても良い。[転換]
(STEP 3)良く観察するとそういえば卵の表面はザラザラしている。[経験、観察、触覚]
(STEP 4)先の中学の数学ででてきた空間図形に関連づける。[知識の適用]

もうお分かりでだと思いますので、ここまででやめておきます。原理がわかれば、実践することは簡単です。息をこらして注意深くやると誰でもできます。平らなテーブルの上で十分です。そっと添えた手を離すと、ほら卵が立ったでしょ。

おわりに
本稿では、「ガラスの板の上に立っている生卵」を例に取り上げて、「調べないで考えることを楽しむ」提案をいたしました。このような題材は、他にもたくさんありますし、大学生が授業で課せられるレポート課題でもこのような「考える」アプローチが求められるものがあります。今ではなんでもインターネットで調べるのが当たり前になってしまいましたが、「考える力」を身につけるためには、あえて「調べない」ことも大切です。あるいは、調べたとしてもそのままでは使わないことです。調べたことは一つの情報でしかなく、必ずしもそれが正解とは限りません。それよりも、自分で考えることで正解に到達する方が楽しいし、そういう経験を通して単なる情報であってもそれを利用するという応用力が身につきます。わからないことに遭遇したら、あえて調べないで考えるという習慣をつけましょう。

 

[2018年2月4日掲載,2月5, 6日更新]