夢の超軽量展開構造物に向けて

ここでは、古くから研究開発が行われてきている展開形式の宇宙構造物の状況と最近注目を集めつつある宇宙インフレータブル構造について紹介したいと思います。展開構造物を作るとき、パネル(板)やビーム(棒)をヒンジ(蝶番・関節)で結合する展開方法が最も一般的です。精密な機械加工が必要であったり、組み立てに時間を要するなどの問題があるにしても、この方法でこれまで様々なものが開発されてきました。その一方で、展開時の不具合も少なくなく、アンテナや太陽電池パネルの展開が完全にできなかったために、衛星のミッションの遂行そのものに支障が生じたり、予定されていた衛星の寿命が達成できないといったことが生じることがありました。さらに、アンテナの場合では直径が20mを越えるような寸法になると、大形化に伴う高コスト化と収納サイズの増大がより顕著になります。

外国では、このよう問題は1960年代から指摘されてきており、宇宙インフレータブル構造という、気体(窒素ガスなど)を導入して膨張展開する構造についての基礎的な研究がこの頃に開始され、また一部ではありますが実用化もなされてきました。しかし、その後しばらくは前述した一般的な展開様式が実用化の点では主流になり、インフレータブル構造は研究として一部で継続されるにとどまっていました。しかし、1990年代後半からは、インフレータブル構造の研究が加速され、いくつかの衛星ミッションで利用が検討されるなど、インフレータブル構造に対する見方は急激に変わってきています。
インフレータブル構造は、複雑な機構を使わないため展開の信頼性が高く、また部品点数が少ないため製造コストが低くできます。また、折り畳み方法によっては収納時の形状にある程度の自由度があるので、ロケットの荷室の中の複雑な収納スペースに納めるのに適しています。ヒンジや展開機構のような機構部品がほとんどないため軽量化にも貢献できます。このような数々の利点があるため、将来の大形展開構造として今非常に注目を集めています。私がこれまでに取り組んできた技術についてはこのサイトの別のページで紹介していますので、そちらをご覧下さい。これらの技術は、実用化のためにはまだまだ解決すべき課題が少なくありません。
しかし、宇宙の特殊ではあるけれども、重力がほとんど無く、風も吹かず雨も降らない常に安定した環境では、地上では扱い難いような薄い膜材料を使った構造物が作れる可能性があります。この研究では、これまでの常識にとらわれない自由な発想が何よりも大切です。研究室では、若い学生が中心になって、そのような夢の展開構造物の実現に向けて、日々様々な研究活動を行っています。皆さんのご参加を期待しております。