斎藤悠樹(大学院 工学研究科 機械工学専攻(航空宇宙学領域)2年) 
研究テーマ「突起を有する壁面に接触した気密膜構造物の膜面における応力分布に関する研究」

研究対象とする物体は気密膜構造物であり,これは膜内に空気などのガスを流入させ,内圧をかけることによって膨らませる構造物である.この構造は膜材を用いることによる軽量性や,折りたたむことによる収納効率の高さが特徴で,ペイロードの制限された宇宙においては非常に有用な構造物といえる.宇宙探査ミッションの長期化や,そもそも地球上のシステムに比べて人の介在が非常に少なくなる宇宙構造システムでは,構造物の状態を監視し,異常の検知とその位置の推定が行えることが望ましく,その分野において用いられている技術がヘルスモニタリングである.
人類が将来月の探査に赴いた際の活動拠点建設地として,月の溶岩チューブが注目を集めている.溶岩チューブとは,溶岩が流れ出した後にできる空洞のことで,月面に点在する縦穴の観測から溶岩チューブの存在が観測されている.溶岩チューブ内に拠点を築くメリットとして,放射線の影響が小さいことや内部温度が安定していること,隕石の影響が少ないことなどが挙げられる.

本研究では,溶岩チューブ内に気密膜構造物を構築すると仮定し,その際に構造物に生じる問題について考える.具体的には,溶岩チューブ壁面にある突起に着目し,そこに膜構造物が接触した際に生じる膜面の局所的変形部における応力分布解析を行う.解析手法については,構造解析の分野で一般的に用いられる有限要素法による解析をABAQUSを用いて行う.

現在は,突起の形状を角柱や球などの異なる曲率の突起にすることで,曲率と接触部付近の応力分布の評価を進めている.例として,角柱突起に押し当てた膜面の応力のコンター図を以下に示す.曲率以外にも様々なパラメータを用いて応力分布への影響を評価していく.